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ぶっ飛んだトリックをあなたは当てられるか【『ドローン探偵と世界の終わりの館』感想 ネタバレありver.】

四葉です。

先日『ドローン探偵と世界の終わりの館』のネタバレなし感想記事を投稿しました。

yotsuba-box.hatenablog.com

今回はネタバレありの感想となります。ネタバレを見たくない方、作品の概要を知りたい方は上の記事を参照ください。

 

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(以下、ネタバレあり)

 六騎の謎の行動の理由とは? 彼の推理でついに犯人が判明

218ページ、玲亜の死体を見つけた六騎は、突然Fenrir(ドローン)を彼女の腕にぶつけ始めます。ボロボロになる玲亜の右腕。

およそ正気とは思えない行動ですが、これによって六騎は犯人がわかったようです。

ドローンで見ている画面に映った人物は右肩をきつく布で縛っていて、右上腕の着衣がスッパリと切れていました。

六騎はこれを見て、犯人がこの人物であると確信します。

犯人がドローンに傷つけられたふりをしたのは、181ページ、次の場面ですね。

 

Xは意を決して、プロペラをぶつけられた振りをした。

Xの右上腕が美しいまでにスッパリと切れ、血の花が咲いた。

 

そして玲亜にぶつかった時のシーンはこちら。218ページです。

 

Fenrirを旋回させて状況を確認すると、どうやらプロペラが玲亜の死体に

当たったらしい。右上腕に、巻き込んだような醜い傷跡ができている

 

そう、六騎はドローンに接触した時の傷のつき方に違和感をもったのです。

玲亜に接触した際の傷は醜いのに、画面の人物Xは綺麗な切り傷。つまりXはドローンに腕を傷つけられたのではなく、自分で自分を傷つけたのです。

そして自身の腕を傷つけるなら、当然利き腕と逆を傷つけるはずだと六騎は推理します。今はサバイバル中であり、利き腕は残しておきたいはずです。つまり犯人は左利きの人物ということになります。

 

では利き腕がわかる描写はあったのか……ありました。

78ページ、パーキングエリアのシーンです。テーブルの席順を図にすると下のようになります。

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そして足彦と林檎の箸を持つ手がぶつかっています。つまり足彦は右利き林檎は左利きということがわかるのです。

さらに、猪知郎がそれを受けて林檎と席を変わろうかと発言していることから彼が左利きであることも否定されます。左利きだとしたら無意味な提案ですからね。

透、零、玲亜は死亡しているので、生き残っている三人の中で左利きの人物は林檎しかいません。よって犯人は林檎ということになります。

 

席順での利き腕のことは読んでいて気づきました。伏線だろうということは察していたんですが切り傷のロジックは思いつかなかったので犯人にはたどり着けませんでした。残念……

……ええ、本作の肝となるのはそこではありませんね。そうです、「トリック当て」です。

ぶっ飛んだトリックに目を疑う

事件を振り返ってみましょう。

 

第一に、透の死体がギムレー(黄金の間)の前室に移動し、外扉が開かなくなりました。どうやってこの密室ができたのか?

第二に、全員アリバイがある状況、しかも犯人は離れたところにいるのに零はバラバラ死体になりました。どうやったのか?

 

ドローンを使ったトリック……

あれ? ドローンを持っているのは六騎じゃないですか。

ということは実は犯人もドローンを隠し持っていたんでしょうか……?

 

いいえ、違います。全ては、231ページを読み終え、ページをめくった瞬間に明かされます。

232ページの冒頭――――

 

水面から顔を出した。

 

そして次に続く文章、

 

三人は湖畔にある開けた場所に上がると、スキューバダイビングのフルフェイスマスクを脱ぎ、背負っている空気のタンクを下ろした。

 

 

ここで読者はようやく気づくことになります。今まで普通に探検していたように見えた探検部でしたが、実は水没した洋館内をスキューバダイビングをしながら探索していたのです。

なんとヴァルハラに六騎が持ってきていたのは水陸両用のドローンでした。

 

そう、ドローンを使った物理トリックを見破るというのはミスリードでした。

読者に求められていたのはドローン(が空を飛ぶという先入観)を使った(叙述)トリックを見破ることだったのです!

わかるかーーーー!!笑

仕掛けを理解した瞬間、また早坂先生やってくれたな……と思わず笑ってしまいました。

 

さて、この事実を踏まえた上で六騎の推理を見ていきましょう。

まず透が殺害された第一の事件。

透はギムレーの前室に移動させられ、外扉が閉められました。しかし駆けつけた部員たちが外から扉を開けようとしても開きませんでした。

六騎は、これが水圧差を利用したものだと説明します。

水圧は水深に比例し、水深の深いところほど高い圧力となります。二階の窓よりも一階の窓が割れているという描写は103ページに記載があります。それは高い水圧が長年かかっていたのが原因でした。

部屋の外の水深は水面から水底までも距離なのに対し、部屋の中の水深は天井から床までと水深が大きく違うことで外圧が内圧よりも大きくなり扉が開けられなくなったのです。

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(ざっくりした図)

 

でも本館の扉は開け閉めできたと猪知郎が疑問を口にしますが、本館は至るところに穴が開いていて隙間があり水圧差が生じなかったためと六騎は説明します。

「これは扉を閉めただけで完成する密室だったんだ」

そう言って六騎は第二の事件の説明に移ります。第二の事件は全員にアリバイがありますが……

六騎は、林檎は零を殺していないといいます。そして零は事故死したと付け加えました。

そこでポイントとなるのが、208ページの描写です。そこで六騎はフェンリル像にドローン(Fenrir)を近づけようとしますが、Fenrirは進んでいきませんでした。六期はその理由を「ドローンの進行方向から水が流れてきているため」と説明します。

石像の大口は排水口、ということは取水口もあるはず。それは屋敷の周りを取り囲んでいるヨルムンガンド像の口ではないかと言い、さらにそういった造りにした理由は水力発電ではないかと推理します。

水力発電のプロペラはヨルムンガンド像の中に隠されていて、取水口から吸い込まれた零はそのプロペラによってバラバラになったのです。

犯人の行動理由に納得、そして終幕へ……

ではなぜ水力発電をしていたのか?

零からとんでもない推理が飛び出します。

水力発電をしていたのは水中でギムレーを稼働させるためであり、ギムレーの中には御出院氏がいるというのです。

 

御出院氏は最終戦争(ラグナロク)を生き延びるためにギムレーに籠り、戦争の終結を待っていたと――――

前室にあった保存食は、そのためのものでした。

そしてここで絡んでくるのが八年前のかくれんぼです。

足彦が見たという初老の男の幽霊、そしてギムレーの前室に入ってきた誰か、それらは全て御出院氏本人だったのです。

ギムレーの前室の扉を開けて御出院氏は洋館に入っていて、その姿を足彦に目撃されます。

そしてその時前室の鍵は開いているので透がそこに入り込むことも可能でした。

そしてギムレーの本室に御出院氏が入った後、透は前室を開けっ放しにしたまま出てきてしまいそれにより前室の保存食は水浸しになってしまったのです。

それにより御出院氏は餓死寸前なのではないか、林檎は今回ヴァルハラに来てそのことに気づいたのです。

かくれんぼの話を聞いて透に怒りを持った林檎は透を殺し、前室に閉じ込めます。

 

なぜそんなことをしたのか。

前室に死体がある以上、警察が死体を調べる際に前室の扉を開けなければいけません。それにはダムの水を抜いて水位を下げる必要があります。

その際に御出院氏のことを話し、救助をしてもらおうと林檎は考えました。

 

しかし嵐で林檎は館に閉じ込められます。自分も死ねばその方法で御出院氏の救助をすることもできない。

だから林檎はタンクを奪うために他の部員を殺したのです。

 

全てが繋がり、事件は幕を閉じます。

しかしギムレーの扉を開けた警察と六騎は驚きます。そこには誰もいなかったのですから。

後日、御出院氏が出頭してきて顛末を話しました。なんと透がかくれんぼの時に崩したダンボールが頭に当たったことで目が覚め、水中でずっと過ごすことに恐怖を覚えヴァルハラから逃げ出した、と。

 

最後の展開はそれでいいの、と思わず突っ込みたくなりますが(ダンボールのくだり)、早坂先生らしいおふざけのようにも思えます。

ドローン探偵だ

ぶっ飛んだトリックには驚かされました。

それはさておき(さておくほどのものではないですが)、個人的に好きだったのは最初と最後の章題です。

第一章「ドローン探偵ではない」

第五章「ドローン探偵だ」

最初は「ドローン探偵」と呼ばれることを不服に思っている六騎ですが、この事件を経て考えが変わります。

章題を見た時点で、なにかしらの変化はあるのだろうな、とは思っていましたが好きな展開でした。

 

あなたは黒羽刑事にはなれない。だってあなたは彼本人ではないのだから。

あなたは「ドローン探偵」飛鷹六騎。

あなたにとっての神話である黒羽刑事。その神話を打ち破って。

夢から醒めて現実を見て!

 

六騎はそうHelに言われて六騎は神話を捨てるのです。

「ドローン探偵」とサインをした手紙をドローンに括りつけてダムの職員に見せることでダムの水位を下げることに成功、探検部三人の命が助かります。

 

神話から解き放たれた六騎は、誇りを持ってドローン探偵の仕事をしているように見えます。

それはラストシーンの「ドローン探偵、出動」という心の呟きからもわかりますね。

最後に

さて、この作品ですが犯人特定のロジックはストレートなものの、仕掛けは変化球です。定石通りのミステリに飽きた人にもってこいじゃないでしょうか。人によっては怒る人もいるかもしれませんが(笑)

読みやすく、テンポもよく、衝撃のトリック! と盛りだくさんな一冊です。

まだ読んでいない早坂さんの最新作ではどんなことをしてくれているのか、今から楽しみです。

それでは、今回はここまで!